◎考察
空調などによる測定雰囲気の違いはありますが、放射率が一定に定まらなかったのは何故でしょうか。
考察するに当たり、放射エネルギーに関する法則を以下に示します。
- プランクの法則
物質は、そのもっているエネルギーを電磁波として放出しますが、その大きさと波長は温度に熱力学温度(ケルビン:K)に依存する。
以下に完全黒体(放射率=吸収率=1)における物質の各波長、各温度における単位面積、単位波長当たりの分光エネルギーの式を示す。
E
λ = C
1 / { λ
5 (e
C2/λ・T - 1) } [W/m
3]
( E: 単位面積、単位波長当たりの分光エネルギー [W/m
3]、λ:波長[m]、T:熱力学温度[K]、
C
1:定数 3.740 × 10
-16[W・m
2]、C
2:定数 1.439 × 10
-2[m・K] )
図15.黒体放射における分光エネルギー(当社カタログより抜粋)
- ステファン・ボルツマンの法則
物質の放射エネルギーは温度に依存し、熱力学温度(ケルビン:K)の4乗に比例する。
以下に完全黒体における物質の各温度における単位面積当たりの放射エネルギーの式を示す。 E = 5.67 × 10-8 × T4 × α (=1) [W/m2] …式1
(E:単位面積当たりのエネルギー[W/m2]、T:熱力学温度[K]、α:放射率)
- ウィーンの変位則
物質の放射エネルギーのピーク波長は温度に依存し、熱力学温度(ケルビン:K)に反比例する。
以下に各温度における放射エネルギーのピーク波長の式を示す。 λ = b / T …式2
(λ:ピーク波長[μm]、b:定数 2897.8[μm・K]、T:熱力学温度[K])
また、当社ハイレックスヒーター表面温度600℃における分光放射率は下図のようになり、平均放射率(=放射率)が0.85となります。

図16.分光放射率:表面温度600℃(当社カタログより抜粋)
図16のように、各物質には放射エネルギーの吸収しやすい波長があり、波長毎の分光放射率(=吸収率)があります。プランクの法則、ウィーンの変位則より、ハイレックスヒーター表面温度毎に放射エネルギーのピーク波長が変わる(温度が高い程、ピーク波長は短波長側に遷移)ため、今回の試験では、表10の解析結果のように、汎用熱電対の放射率は一定に定まらず、またヒーター表面温度が高い方が、汎用熱電対表面の吸収しやすい波長であったと考えられます。
◎まとめ
今回の試験では、汎用熱電対とハイレックス熱電対で測定温度に大きく違いが出ることが確認できました。
試験結果より、ハイレックス熱電対の表面放射率を一定とし、汎用熱電対の表面放射率を算出しましたが、加熱するヒーター表面温度により、放射率が一定に定まりませんでした。これはウィーンの変位則により、ヒーター表面温度毎に放射エネルギーのピーク波長が変わること、及び汎用熱電対表面の分光放射率(吸収率)のによるものと考えられます。
今回はハイレックスヒーターを使用しての実験でしたが、空焼き用ヒーターを使用して実験してみたり、熱電対のシースの材質そのものを変えてみて実験してみるのも面白いのではないかなと思いました。