LABORATORY熱の実験室

 4. 考察

 蒸留水を冷却したときの温度変化について、図4-2のような形になる一般的な説明を述べたい。

 水分子は液体のとき、図1で示したようにゆらゆらと熱運動して動いているが、結晶を形成して氷になると水分子が決まった向きで配列する。したがって固体では分子の熱運動が制限されて小さくなるため、液体の時にもっていたエネルギーが固体になったときに熱として放出されることになる。この熱が過冷却状態を脱した後に図4-2赤破線部のような急速な温度上昇として現れ、純水の場合、このあと全部が氷になるまで0℃で平衡を保つ。しかし今回実験に用いた蒸留水では、3時間経過後で図4-2緑破線部Bに示すように0℃から温度低下していく様子が見られた。これは水中に何か溶けている物質が存在する液体、すなわち「溶液」が氷になるときの温度変化に見られる現象であることが知られている。また、この溶液本来の凍る温度は図4-2緑破線部A・Bを延長した図4-2直線abと温度変化曲線との交点(図4-2赤矢印)とされ、この温度は純粋な水が氷になる時の温度よりも低くなる。この現象を「凝固点降下」といい、溶液に溶けている物質の濃度が高いほど凝固点降下が大きくなる。今回用いた蒸留水にはおそらく蒸留だけで除去しきれなかった揮発性の不純物が水中に残留していたため、図4-2緑破線部Bに示した凝固点降下が見られたと考えられる。
 水が全て氷になると、その温度は0℃から低下して周囲の環境に近づいていく。その様子が緑破線部Cで見られている。

  4-1. 過冷却状態での温度低下大きさについて

 過冷却状態での温度低下の大きさが
蒸留水(-1℃) < volvic ≒ 嬬恋高原の天然水(-5.5℃)
 となった理由について考えてみる。
水は氷になるとき、水分子が規則的な配列をもった結晶を形成する(図2)が、このとき水分子以外の成分が存在すると、水分子の配列を邪魔して結晶化が起こりにくくなる。したがってvolvicや嬬恋高原の天然水はミネラル成分が含まれている分、蒸留水と比較して過冷却状態での温度低下が大きくなったと考えられる。
 また、写真1、写真2からvolvicと嬬恋高原の天然水のミネラル成分の量を比較するとvolvicの方が多く、過冷却時の温度低下が一番大きくなりそうだが、嬬恋高原の天然水とほぼ同じという結果になった。この点についての理由は今回の実験では分からなかったが、水分子の結晶化が何らかの原因によって阻害されていることから、水中に溶けているすべての成分とその濃度を分析することで明らかにできるかもしれない。

  4-2. volvicが過冷却状態を脱した後、さらに温度が下がっていく理由

 溶液が氷になる場合は水だけが先に氷になっていくため、残った水の中に溶けている成分の濃度が氷の形成に伴ってどんどん高くなる。よって、溶液が氷になっていくとともに凝固点降下が進んで温度が次第に下がっていく。
 また、溶液中に溶けている物質が多いほど水分子が結晶化を阻害するため、図4-2直線abの傾きは溶液中の溶質濃度に比例すると考えられる。したがって図6橙破線部B'に見られたように、過冷却状態を脱した後にvolvicが嬬恋高原の天然水と比較して大きく温度低下する現象は、volvicの中に溶けているミネラル分など溶質の多さを反映しているものと考えられる。

 5. 即席オレンジシャーベットを作ってみよう!(おまけ)

 水の過冷却についての実験を活かし、オレンジジュースを過冷却状態にすることで器に注いだ瞬間にできあがる「即席シャーベット」を作ってみた。

□作り方□(オレンジジュースはペットボトル入り果汁40%のものを使用)
  1. まず初めに恒温恒湿器の温度を調節しながらオレンジジュースが確実に凍る温度を見つける。
  2. 確実に凍る温度から少しずつ温度を上げていき、オレンジジュースが過冷却状態ぎりぎりで凍らず液体状態を保つ温度を探す。
  3. (2.)で見当をつけた温度にオレンジジュースを冷やし、恒温恒湿器から出してすぐに家庭用冷蔵庫の冷凍庫で冷やした器に注ぐとオレンジシャーベットのでき上がり!
[動画3]
 以上の作り方でシャーベット作りに最適な温度を探したところ、-6℃と見当をつけた。このとき実際に作製したときの動画を示す。
 食べた感じとしてはシャーベットよりも水っぽくて、雪を食べているような食感だった。
 温度をさらに下げてもできそうではあったが、その場合ペットボトルのキャップを開けた瞬間に凍り始めてしまったりすることがあるため、注いだ瞬間凍るような温度の微調整がポイントになってくる。他に炭酸飲料や、牛乳などで実験してみても面白いかもしれない。