LABORATORY熱の実験室


 ● 実験結果1

 スペースヒーターで加熱したときのグラファイトの表面温度を示す。

図6. スペースヒーター各表面温度における各グラファイトの最高表面温度(20分通電)

 中心のグラファイト(1)から(2)、(3)とヒーターへ近づくにつれ温度が高くなっている。

 次にハイレックスヒーターで加熱したときのグラファイトの表面温度を示す。

図7. ハイレックスヒーター各表面温度における各グラファイトの最高表面温度(20分通電)

  中心のグラファイト(1)から(2)、(3)とヒーターへ近づくにつれ温度が高くなっている。

 スペースヒーターは底面にステンレスの反射板を置いてグラファイト温度を測定、一方ハイレックスヒーターは底面とヒーターの側面20mm の位置にステンレスの反射板を置き上面は両ヒーターとも開放して測定した。比較するとスペースヒーターの500℃の方がハイレックスヒーターの700℃よりもグラファイト温度が高くなった。グラファイトからのヒーター距離はハイレックスヒーターの方が近いが表面積の大きいスペースヒーターの方がグラファイト温度は上昇した。
 グラファイトの温度上昇は、放射熱伝達が支配的である。実験1において、グラファイトへの放射熱を考察する。

・ステファンボルツマンの法則
 物質の放射エネルギーは温度に依存し、絶対温度(ケルビン値)の4 乗に比例する。
 下に放射率1(完全黒体)における物質の各温度における単位面積当たりの放射エネルギーの式を示す。
E = 5.6697×10-8×T4×α (= 1)[W /m2]
(E :単位面積当たりのエネルギーT :絶対温度[K] α :放射率)
 比較のため、ヒーター表面温度500℃の場合の放射エネルギーについて考察する。ヒーター表面温度500℃のときのスペースヒーターの放射エネルギーは、放射率0.85 と仮定すると
E = 5.6697×10-8×7734×0.85 = 17207[W/m2]
となり、放射面からの放射エネルギーは
17207×2π×150×10-3×100×10-3≒1622[W]
となる。同様にハイレックスヒーターにおいても計算すると
17207×2π×6×10-3×2π×127.5×10-3≒520[W]
となる。各表面温度における放射面からの放射エネルギーを表3に示す。また、500℃温調時の測定電圧値より各ヒーターの発熱量を計算するとスペースヒーターでは
2002[V]÷12.5[W] = 3200[W]
となる。同様にハイレックスにおいても計算すると。
2002[V]×40[W] =1000[W]
となっており、発熱量に対する放射エネルギー量の割合は、およそ
 スペースヒーター :1622/3200≒0.51
 ハイレックスヒーター :520/1000=0.52
となり、ヒーターの形状は異なるがほぼ同じ割合になっている。また、各表面温度における各ヒーター放射面からの放射エネルギーを表1に記す。
 次に各ヒーターについて受熱量を考察する。グラファイトの温度が安定していることから放熱量とグラファイトが受け取っている放射エネルギーが平衡していると仮定してグラファイトの放熱量を次式から求める。
A = (グラファイト表面の温度[℃]-雰囲気の温度[℃])×グラファイトの表面積[m2]×外気への対流熱伝達率[W/m2K]
B = ((グラファイトの表面温度[℃]+273.15)4-(雰囲気の温度[℃]+273.15)4))×グラファイトの表面積[m2]×物体表面の放射率×σ

 放熱量[W] = A + B
 (A:対流熱損失量[W] B :放熱熱損失量[W] ステファンボルツマン定数σ = 5.67051×10-8)
ここで、
 グラファイトの表面積:1.4×10-3[m2]
 外気への対流熱伝達率:3[W/m2K]
 物体表面の放射率:0.9
 雰囲気の温度:26[℃]
と仮定し、計算結果を表2に記す。 またヒーターからの放射エネルギーと各グラファイトの受け取った放射エネルギーとの割合を表3に記す。結果からヒーターに近いほどより多くの熱量を受けていることがわかる。これは放射面よりあらゆる方向に放射エネルギーが出ているため、放射面に近いものほどより多くの放射エネルギーを受け取るからと推察できる(図8参照)。スペースヒーターとハイレックスヒーターでは単位面積当たりの放射エネルギーに差はないが、スペースヒーターの放射面積はハイレックスヒーターよりも広いため、スペースヒーターのグラファイトの方がより多くの放射エネルギーを受けて温まったと推察できる。
 しかし、グラファイトが受け取った放射エネルギーの割合ではハイレックスヒーターの方が多く受け取っている。これはハイレックスヒーターでの加熱には反射板を使用したのでスペースヒーターよりもグラファイトへ上手に放射エネルギーが伝わったのではないかと推察できる。
 次にグラファイト昇温実験の結果を確認するために、実際に鶏肉を焼いてみる。

表1.各表面温度における放射面からの放射エネルギー
表面温度[℃] 放射面からの放射エネルギー
スペースヒーター ハイレックスヒーター
350 684 220
400 931 299
450 1241 398
500 1622 520
550   668
600   846
650   1057
700   1305
 
表2.各表面温度におけるグラファイトの受け取った放射エネルギー量
表面温度[℃] グラファイトの受け取った放射エネルギー [W]
スペースヒーター ハイレックスヒーター
1 2 3 1 2 3
350 1.29 1.83 2.32 0.66 0.79 1.01
400 1.9 2.68 3.04 0.76 0.97 1.48
450 2.4 3.92 4.57 1.21 1.54 1.96
500 4.17 5.12 6.24 1.23 1.92 2.37
550       1.5 1.98 2.41
600       2.07 2.56 3.12
650       2.51 3.08 3.93
700       2.75 3.92 4.9
 
表3.各表面温度における放射面からの放射エネルギーとグラファイトが受け取った放射エネルギーとの割合
表面温度[℃] 放射エネルギーの比率[%]
スペースヒーター ハイレックスヒーター
1 2 3 1 2 3
350 0.19 0.27 0.34 0.3 0.36 0.46
400 0.2 0.29 0.33 0.25 0.32 0.49
450 0.19 0.32 0.37 0.3 0.39 0.49
500 0.26 0.32 0.38 0.24 0.37 0.46
550       0.22 0.3 0.36
600       0.24 0.3 0.37
650       0.24 0.29 0.37
700       0.21 0.3 0.38

図8.放射エネルギーと距離のイメージ図