LABORATORY熱の実験室

 

 5. 考察

  5.1 測定方法の違いについて

 測定方法の違いによりスリーブ温度にどう影響が出るのかを式2.1から考える。測定方法の違いは距離の原点(x=0)の位置の違いである。原点の位置をブロックの端面にした場合と取付金具にした場合ではT0の値が後者の方が低くなる。また、測定方法が異なっても原点からの距離Lは共通のためxの値は変わらない。よって下(1回目)/下(2回目)の値は原点の位置の温度の違いによってきまる定数となる。これを利用すれば下(1回目)の実験データを前回と同様の方法で測定した場合のデータへ補正が可能である。図8に補正したデータを用いた距離Lとスリーブ上昇温度の関係について示した。曲線はexp関数でフィッティングしたものである。左軸はスリーブ上昇温度、右軸は室温が20 ℃と想定してスリーブ上昇温度に+20 ℃ したものである。補正には実験値に対する測定の誤差が小さい500 ℃、700 ℃の場合のデータを用いた。この図を利用することでスリーブの使用温度限界以下(90 ℃)となるスリーブまでの距離を見積もることができる。
 測定方法の違いは原点位置での温度の違いであり、測定結果を見ても熱電対を横から挿入した場合と下から挿入した場合のスリーブ上昇温度の違いの原因ではない。
 
図8 熱源からの距離とスリーブ上昇温度の関係。

  5.2 周囲に壁や台がある影響

 周囲に壁や台がある環境における測定結果の下(2回目)と、無い環境における測定結果の下(3回目)を比較すると前者の方がスリーブ上昇温度は高い。これは前者の方が熱がこもりやすい、熱源から放射されたエネルギーが壁などで反射され、それが熱電対に吸収されるからだと考えられる。
 前回の実験ではブロックを台の上に置いて測定していたため、程度は違うが周囲のものから反射された放射エネルギーのやり取りが行われていた。よって、今回の測定結果の下(2回目)と条件が近く、周囲に壁や台がある影響は、熱電対を横から挿入した場合と下から挿入した場合のスリーブ上昇温度の違いの主な原因ではない。

  5.3 熱電対周りの空気の対流について

 熱電対周りの空気の流れの解析より、横から挿入した熱電対には熱電対に向かう空気の流れがあるのに対し、下から挿入した熱電対には熱電対直近の空気はほぼ停滞していることが分かった。解析の温度分布より、熱電対周りの空気は熱電対より温度が低い。よって熱電対にぶつかる空気の量が多いほど熱電対は冷めやすいことになる。つまり熱電対周りの空気の対流による熱伝達率の違いが挿入向きによるスリーブ上昇温度の違い、「熱電対を下から挿入したほうがスリーブは熱くなりやすい」という現象を生み出していたといえる。

 6. まとめ

 前回の横方向から熱電対を挿入した場合のスリーブ温度の測定に引き続き、今回は下方向から熱電対を挿入し、スリーブ温度の測定を行った。それによりスリーブ温度を使用範囲限界以下にするための測定物とスリーブの適正な距離を見積もることができた。ただし、この結果は今回測定を行った環境での結果であり、周囲の環境が変わることでスリーブ上昇温度が変わることも確認できた。また、当初の予測と反して、熱電対を横から挿入した場合と下から挿入した場合では空気の対流により熱伝達率が異なり、下から挿入した熱電対の方が熱くなりやすいことが分かった。