1.はじめに
朝食はご飯よりパン派という人も多いのではないでしょうか。そんな身近な食品の一つとなっているパンですが、「石窯で焼いたパンは一味違う!」「美味しい」と感じたことはありませんか?石窯でパンを焼くと外側はパリッと中はもっちりとした食感に仕上がっていますよね。そのヒミツは、石が熱せられることで放出する遠赤外線にあると言われています。遠赤外線が均一にパンの表面を焼き上げ、その熱で内側を温める・・・これは果たして本当なのでしょうか?
ということで今回の熱の実験室では、遠赤外線の効果を確かめるべく、加熱方法の違いによってパンの美味しさは変わるのか、検証してみました。
2.用意したもの
2-1.材料
・牛乳
・ドライイースト
・強力粉
・無塩バター
・塩
・砂糖
2-2.道具
・ボウル
・計量カップ
・ゴムベラ
・包丁
・バターナイフ
・計量スプーン
・ケーキクーラー
・クッキングシート
・ラップ
・オーブン天板
・茶こしき
・箱
・温度計
2-3.実験器具
パンを焼くための機器
・コンベア式遠赤炉 (三相200V 14kW)
・精密恒温器 DF62 (単相200V 3kW)
その他の機器
・ホットプレートDEMO HHP3025(単相200V 1.2kW)
・含水率測定器 MB25
・データロガー
・熱電対
3.実験
3.1.レシピ
パンの作り方はこちらのレシピを参考にしました。
【DELISH KITCHEN】シンプルな味わい!丸パン
https://delishkitchen.tv/recipes/231687879091290409
3.2.準備
3.2.1生地の作成
レシピにならって生地を作成します。

3.2.2一次発酵
ホットプレートDEMOに箱をかぶせて35℃の雰囲気温度を作り、発酵させました。

発酵で生地が膨らみます


3.2.3.二次発酵
パンを焼くときの生地内部の温度を測るため、二次発酵前に熱電対(温度センサー)を埋め込み丸めます。


一次発酵と同様に、ホットプレートDEMOに箱をかぶせて40℃で二次発酵させます。




3.2.4.パンの焼成
遠赤効果あり/なしを比較するため、2つの装置を使ってパンを焼きます。
- コンベア式遠赤炉:1本あたり580Wの遠赤外線ヒーターが24本庫内上下に取り付けられています。
→遠赤あり - 精密恒温器:庫内にはヒーターが無く、ヒーターユニット内で発生した熱をファンで強制対流させています。
→遠赤なし




4.実験結果・評価
4.1.焼き上がり
コンベア式遠赤炉で焼いたパン(遠赤ありパン)と精密恒温器で焼いたパン(遠赤なしパン)の外表面と断面を写真13~16に示します。




4.2食味の評価
評価項目
パンを美味しいと判断する基準を以下の5項目に決めました。
① 見た目
② 外側の食感(パリッと感)
③ 内側の食感(もちっとしっとり感)
④ 香りの強さ(香ばしさ)
⑤ 味(小麦のもつ甘味等)
「遠赤外線あり」と「遠赤外線なし」、また、「焼きたて」と「冷めた状態(焼き上がりから約3時間放置)」の計4パターンで評価しました。
8人の社員が試食し、5項目それぞれについて5点満点で採点を行い、平均点を表1及びグラフ1にまとめました。
表1.食味の評価結果
| 評価項目 | 遠赤なし 冷めたパン | 遠赤あり 冷めたパン | 遠赤なし 焼きたてパン | 遠赤あり 焼きたてパン |
|---|---|---|---|---|
| 見た目 | ||||
| 外側の触感 | ||||
| 内側の触感 | ||||
| 香りの強さ | ||||
| 味 | ||||
| 平均値 |
()の値は、遠赤なしに対する遠赤ありの差

①[見た目]
遠赤ありで焼いたパンの方が遠赤なしよりも焼き色が良く付きました。少し焼きすぎたと感じる人もいました。
②[外側の食感(パリッと感)]
遠赤ありの焼きたてパンは表面の焼けた層が厚い分、パリッとしていました。冷めるとパリッと感はやや薄れました。
遠赤なしの方は焼きたてでもパリッとしておらず、コッペパンのように柔らかい食感でした。
③[内側の食感(もちっとしっとり感)]
冷めた状態よりも焼きたての方が水分量が多く、また遠赤なしよりも遠赤ありの方が水分量が多いように感じました。中 にはべちゃっとしているという意見もありました。
④[香りの強さ(香ばしさ)]
遠赤ありで焼いたパンの方が表面が良く焼けているので香ばしかったです。また、焼きたての方が良い香りがしました。
⑤[味(小麦のもつ甘味等)]
遠赤ありで焼いたパンは香ばしさにつられ、小麦本来の甘味は感じにくかった印象でした。遠赤なしの方が甘味を感じることができました。
4.3.パンの温度
遠赤ありとなしで焼いたパンの表面と内部(写真17~20の赤丸印で囲った部分)の温度を測定し、その結果をグラフ2に示します。





*「遠赤あり」のグラフが約2分から温度を記録しているのは、コンベア式遠赤炉の入り口から中心までコンベアで移動するのに約2分かかるため、記録しませんでした。
遠赤ありとなしで焼いた場合で比較すると、パンの内部の温度に大きな差異は見られませんでした。一方で、パンの表面温度においては、遠赤ありで焼いたパンの方が焼き始めから温度が高く、さらに約7分経過した時点で温度勾配が大きくなり、最終的には40℃近い温度差となりました。
4.4.含水率
焼きたてパンの含水率を測定し、その結果を表2に示します。
表2.焼きたてパンの含水率
| 焼成方法 | 遠赤なし | 遠赤あり |
| 含水率(W.B.) | 40.5% | 41.3% |
遠赤ありで焼いた方が含水率が約1%高い結果となりました。差はわずかに感じるかもしれませんが、一般的に3%違うだけでも食感に明確な差が出ると言われているため、約1%の差は大きな差と言えると思います。
5.まとめ
焼成方法の違いによって見た目、食感、香り、味に明確な差が生じることが分かりました。パンの好みによって意見が割れ、点数のばらつきは見られたものの、5項目の平均点が最も高かったのは遠赤ありの焼きたてパンでした。遠赤外線による輻射熱で焼成すると石窯パンのように外側はパリッと内側は水分を含んだまま焼き上がることも確認できました。
一方で、遠赤ありで焼いたパンは含水率が高かったにもかかわらず、内側の食感の評価が低いという結果になりました。これは、外側のパリッと感に引きつられてもちっと感じにくかった、或いはしっとりしているパンが好みではない人もいたからであると思われます。
また、遠赤外線ありで焼くと外側はパリッと内側は水分を含んだまま焼くことができる理由は次のように考えられます。図2でパン表面温度を比較すると遠赤外線ありの方が高いにも関わらず、写真12で断面図を確認するとパン表面の焼き色は数ミリに留まっております。これはパン表面のみを素早く焼き上げることで内部に水分を閉じ込め、外表面の熱でゆっくりパン内部を焼成したことが挙げられます。
6.最後に
今回の実験から、石窯パンが美味しいと言われているのは、遠赤外線によって外はパリッと、中は水分を保ったまま焼成することができるためであると推測できました。
パンの好みは人それぞれです。石窯パンに限らず、パリッとしたパンが好きな人、ふわふわしたパンが好きな人、甘味のあるパンが好きな人もいることでしょう。皆さんの自分好みのパンに出会えることを願っています。
