LABORATORY熱の実験室

3.2 質量(水分量)の変化

 Fig. 9のグラフは、乾燥開始から5分おきに質量を測定し((a)は一部、抜けあり)、乾燥前の質量を100%としたときの質量減少率の推移を示しています。質量が減少する速さ、すなわち水分が蒸発する速さは、(b)遠赤加熱が最も速く、次いで(c)遠赤熱風併用加熱、(a)熱風加熱という順番となりました。当初、(c)遠赤・熱風併用加熱が一番早く乾燥するのではと考えましたが、予想外の結果でした。理由としては、
  • 遠赤加熱単体では、ヒーターとサツマイモの距離が近く、3.1でも述べたように、触ると火傷しそうなくらいにサンプル表面が加熱されて、水分の蒸発速度が速くなったため。
  • 遠赤と熱風を併用すると、ユニットから吹出す風の影響でハイレックスヒーターが冷却され、輻射加熱の効果が弱まり、蒸発速度が(b)に比べ穏やかになったため 。
と考えられます。実験後、ヒーター表面の温度を確認したところ、遠赤加熱単体では705℃ですが、熱風を併用すると470℃まで下がることが分かりました。
 Fig. 10のグラフは、予備実験より求めた、1時間蒸かした後のサツマイモの水分率は56%、という数値をもとに、5分おきに測定した質量から推定した水分率の推移です。Fig.9 のグラフと同様、(a)熱風加熱の水分率の減少が最も穏やかで、(b)遠赤加熱の水分率の減少が激しく、(c)遠赤・熱風併用加熱がその中間という結果でした。1週間ほど天日で干しあげた干し芋の含水分率は25~26%ほどになる1)そうですが、同様の水分率まで乾燥するためには (a)熱風加熱は120分、(b)遠赤加熱は45分、(c)遠赤・熱風併用加熱では70分かかるということが分かりました。
Fig. 9
Fig. 10

3.3 糖度・味の変化

 Fig. 11のグラフは、乾燥30分ごとに計測したBrix糖度の推移です。いずれの乾燥方法でも水分率が減少するとともにBrix糖度は上昇し、最終的に60~65%の間に収束しそうです。(a)熱風加熱は(b)遠赤加熱、(c)遠赤・熱風併用加熱に比べて糖度の上昇が穏やかなように見えます。
  数名の社員に乾燥させたサツマイモを実際に試食してもらいました。その評価をTable.2にまとめました。甘みに関しては総じて、蒸かした直後のサンプルが最も甘く、乾燥が進むと測定した糖度とは逆に、感じる甘みは少なくなったという評価でした。Brix糖度についての詳細はここでは割愛しますが、その特性上、Brix糖度が上がった=甘さが増したということにはならないということを、身をもって体感しました。Brix糖度に関しては5章に示した文献2)を参考にしました。
Fig. 11
Table 2
乾燥
時間
(a)熱風加熱 (b)遠赤加熱 (c)遠赤・熱風併用加熱
0分
水分量が多く、ねっとり系。甘みを強く感じる。
30分 ねっとり感は残っている
甘さは少なくなった気がする
しっとり感はあるが食感は干し芋に近い
半生のような干し芋
甘みは少なくなった気がする
表面は乾燥が始まっているがまだ蒸かし芋の味、食感に近い
甘みは少なくなった気がする
60分 干し芋の味に近づいてきた 食感はカリっとしているが中はしっとり感が残っている 干し芋の味、食感に近い
中はしっとり感が残っている
90分 焼き芋に近い 中は歯につくくらい粘り気が強い
強い甘みはないが、焦げがあって3種類の乾燥方法の中では一番おいしく感じる
まだしっとり感があって半生タイプの干し芋のよう
乾燥後の芋としては3種類の中で一番甘さがあった気がする
120分 表面の食感は市販の干し芋のよう。
中はしっとり感が少し残っている

4. おわりに

 遠赤・熱風加熱ユニットの試作品を使用して、乾燥方法(加熱方式)を変えて干し芋を作ってみました。市販品のようなクオリティには届きませんが、自分たちで食す程度であれば十分なレベルの干し芋は作ることができました。今回は、熱風の風量や温度、ハイレックスヒーターとサンプルまでの距離など、一定条件での実験でしたが、いろいろと条件を変えることで、より市販品に近い干し芋や、半生に近いタイプ、カリっとしたタイプなど、好みに応じて干し芋を作ることができるのではないかと感じました。

5. 参考文献

1) 茨城県県央農林事務所経営普及部門,日本特産農作物種苗協会情報誌 種苗,No.6 2010.1,42-44 2) さつまいもアンバサダー協会,サツマイモ商品の糖度の謎に迫る