LABORATORY熱の実験室

 

4. 誤差の理由

4-1. 放射温度計自身の誤差

 まず初めに、今回使用した放射温度計自身の誤差について見ていきましょう。右の図は放射温度計の精度(誤差)を表したものです。横軸は放射温度計内の温度、縦軸は測定したいものの温度を示しています。今回は50~180 ℃で実験を行ったため、誤差は±2 ℃以内ということが図からわかります(丸で囲んである範囲)。高温時の温度誤差は10 ℃以上であることから、放射温度計自身の誤差以外に何か別の要因がありそうです。


 放射温度計の精度 (MLX90614センサーモジュール仕様書より)→

4-2. 零点補償から生じる誤差

 では、次に放射温度計の仕組みから要因を考えていきましょう。そもそも放射温度計は、どのようにして温度を測定しているのでしょうか?
 右図は放射温度計の内部を表したものです。放射温度計の中には、内部の温度を測る温度計とサーモパイルが入っています。サーモパイルとはたくさんの「熱電対」が直列で繋がれたもので、放射温度計のセンサーにあたる一番重要な部分です。
 ここでサーモパイルに使われている熱電対について、おさらいしておきましょう。このお話は今回の考察でとても重要になるポイントです。熱電対は2つの異なる金属線の両端をつなげたものです。その両端に温度差ができると、その温度差に応じた起電力が生じます。それを利用して熱電対は温度を測定します。
 一方を測りたいもの、もう一方を氷水につけると、温度差ができて起電力が生じます。生じた起電力と温度差は正の相関関係にあるため、起電力から測りたいものと氷水の温度差を出すことができます。一方は氷水につけているため0℃であるので、起電力から出した温度差が測りたいものの温度ということになります。ちなみに、氷水につけている方の端を「冷接点」、測りたいものの方の端を「測温接点」と言います。
 しかし、温度計の中に氷水を入れるわけにはいきません。そのため、一般的には氷水の代わりに小さな温度計を入れます。0℃の代わりの基準を設けるのです。これを「零点補償」と言います。温度計で測ったその温度に起電力から出した温度差を足すと、氷水なしで測りたいものの温度を知ることができるのです。
 サーモパイルも熱電対と同じような仕組みで温度を測っていて、放射温度計内の温度計で測定した温度を使って、冷接点の「零点補償」を行います。そのため本来ならば温度計の温度は、冷接点と同じでなくてはなりません。
 しかし、プレートに近い場所で測定をしていると内部に温度差が生じてきます。温度差が生じると、温度計の温度と冷接点の温度が異なってしまいます。その結果、零点補償がうまく行われず、プレートの温度を正確に測ることができなくなるのです。
 今回の実験では、温度計の温度が冷接点よりも高かったため、プレートの測定温度も上がってしまったと考えられます。一方、プレートから離れている場所は近い場所に比べ、内部の温度差が小さくなります。したがって、プレートから離れた場所ほど実際の温度との差が小さくなったと考えられます。

4-3. 式からの考察

 零点補償から生じる誤差について、温度を算出するために使われている計算式からも考えてみましょう。
 放射温度計はプレートからの放射された熱を電圧データとして出力する装置です。その変換を行う際に、放射温度計内の温度などを使ってプレートの温度を計算していきます。今回の実験で使った放射温度計は次のような関数を使って、計算しています。
V = A × ( Tp4 - Ta4 ) ・・・(1)

V:出力される電圧 Tp(K):プレートの温度 Ta(K):放射温度計内の温度
 考察のために、この式を少し変形していきましょう。
 まず両辺をAでわった後、Tp4を移項すると…
Tp4 = V / A + Ta4・・・(2)
 さらにこれを変形すると、以下のようなプレートの温度Tpを決定する式になります。
Tp = 4√( V / A + Ta4 ) ・・・(3)
 この式の中には放射温度計内の温度Taが含まれているため、Taが上がるとTpも上がります。このことからも、放射温度計内の温度計で測った温度が冷接点よりも高かったということが言えそうです。

5. まとめ

 今回の実験では、放射温度計内の温度が上がってしまったことにより温度を正確に測ることができませんでした。しかし、放射温度計内の温度の上昇を防ぐような工夫を施すことによって、精度のより高い放射温度計をつくることができる可能性が実験結果から見えてきました。自作放射温度計の実用化への挑戦はまだまだ続く・・・。