4. 考察

4-1. ヒーター表面温度と縦型ストーブ外郭温度について 

 熱の移動には、熱伝導、熱伝達、および熱放射の3つの形態があり、ヒーターの熱エネルギーは、この3つの形態により外部へ移動する。
 Q発熱 = Q伝導 + Q伝達 + Q放射
 単位表面積当たりの発熱量(電力密度)が同じで、かつその全体の発熱量が同じ遠赤外線ヒーターと空焼きヒーターの安定時の表面温度を比較すると、空焼きヒーターの表面温度が高い結果となった。これは遠赤外線ヒーターと空焼きヒーターの熱放射率が異なる為で、表面温度の低い遠赤外線ヒーターは、熱放射による熱移動量が多いため、その結果ヒーター表面温度が低くなり、表面温度の高い空焼きヒーターは、熱放射による熱移動量が少ない、その結果ヒーター表面温度が高くなったと考えられる。熱放射による熱移動量に差が出たのは、ヒーターの放射率が異なるためで、熱放射による熱移動量の多い遠赤外線ヒーターの放射率が高く、熱移動量の少ない空焼きヒーターの放射率が低いことが裏付けられた。
 縦型ストーブの外郭の温度は、熱伝達による熱移動が支配的であるため、ヒーター表面温度の高い空焼きヒーターを組み込んだストーブが、表面温度の低い遠赤外線ヒーターを組み込んだストーブよりも高い結果となった。

4-2. ヒーターの違いによるシリコーンゴムシートの表面温度の違いについて

 シリコーンゴムの表面温度は、0.5m、1m、2mの何れの測定においても遠赤外線ヒーターのほうが高く、空焼きヒーターのほうが低い結果となった。2種類のヒーターの比較において、熱放射による熱移動が遠赤外線ヒーターのほうが大きく、空焼きヒーターのほうが小さい為であり、4-1と同様に空焼きヒーターよりも遠赤外線ヒーターの放射率が高いことを裏付ける結果となった。

4-3. 加熱距離によるシリコーンゴムシートの表面温度の違いについて

 遠赤外線ヒーター、空焼きヒーターの双方ともにストーブとシリコーンゴムシートの距離が近いとシリコーンゴムシートの表面温度が高くなり、距離が遠いと表面温度が低い結果となった。表面が丸いヒーターの放射エネルギーは、距離が遠くなると拡散し、放射エネルギーの密度が低下することが確認できた。

4-4. 放射率について

 八光電機遠赤外線ヒーター(ハイレックスヒーター)の放射率は、分光放射率測定により概知であり、その値は0.85である。一方、本試験に使用した空焼きヒーターの放射率は確認ができていない。そこで、本試験結果から空焼きヒーターの放射率を予想してみた。
 シリコーンゴムシートの熱損失は熱伝達の損失と熱放射の損失の和である。すなわち、
  Q = Q伝達 + Q放射 ………………………………………………………(1)
 ここで、Qはシリコーンゴムシートの熱損失[W]、Q伝達はシリコーンゴムシートが熱伝達の手段で外界に伝えた熱量[W]、またQ放射はシリコーンゴムシートが熱放射の手段で外界に伝えた熱量[W]である。
今回の場合シリコーンゴムシートの熱伝達は自然対流であるので、Q伝達は式(2)で計算される。
  Q伝達 = S1 × H ×〔T1 - T0〕……………………………………………(2)
S1:シリコーンゴムシートの面積[m2]
T1:シリコーンゴムシートの平均温度(絶対温度)[K]
T0:周囲温度(絶対温度)[K]
H:自然対流熱伝達率[W/m2・K]
ここでHは式(3)で計算した。なお、(3)の式は試験による経験式であり、簡易的に自然対流熱伝達率を求める式である。
  H = 2.51 × C ×{〔T1 - T0〕/ L10.25 ……………………………(3)
L1:シリコーンゴムシートの高さ[m]
C:係数
 係数Cは物体の形状、設置条件と関係がある。本試験の場合はその条件からC = 0.56として計算した。

 一方、シリコーンゴムシートからの熱放射エネルギーQ放射は式(4)で計算される。
 Q放射 = S1 × σ × ε ×〔T14 - T04〕 ………………………………………(4)
σ:ステファンボルツマン定数 5.67 × 10-8 [W・m-2・K-4]
ε:放射率
 
次にシリコーンゴムシートが受けた熱量をQ′とすると、Q′はヒーターから放出された放射エネルギーであり、式(5)で計算される。
  Q′ = α × S2 × σ × ε ×〔T24 - T04〕 …………………………………(5)
α:放射密度係数
 ヒーターの表面形状、反射板の影響、被加熱物への距離により、被加熱物の受ける放射エネルギーの密度が変わるため、この影響を放射密度係数として定義した。ヒーターや反射板形状が同じで、被加熱物までの距離が同じ場合、αは同じ値となる。
  α = Q′ ÷ {S2 × σ × ε ×〔T24 - T04〕} ………………………………(5)´
S2:ヒーターの表面積[m2] = 2 × π × R × L2
R:ヒーターの半径 = 6mm
L2:ヒーターの長さ(露出部分)= 0.746m
T2:ヒーターの表面温度(絶対温度)[K]
T0:周囲温度(絶対温度)[K]
  安定時、ヒーターからシリコーンゴムシートが受けた熱量とシリコーンゴムシートの熱損失は一致するので、Q損失 = Q′とする。
 上述した(1)、(2)、(3)、(4)式でQ損失を算出し、既知の遠赤外線ヒーターの放射率0.85と式(5)((5)´)によりαを算出して表3に示す。算出したαと空焼きヒーターの試験結果を使って、式(5)´により空焼きヒーターの放射率を算出することができる。計算結果を表4に示す。
表3 放射密度係数αの計算結果
被加熱物 Q伝達 [W] Q放射 [W] Q′ [W] ε遠赤 α
遠赤外線ヒーター0.5m 448.5 584 1032.5 0.85 1
遠赤外線ヒーター1.0m 250.2 327.2 577.4 0.85 0.56
遠赤外線ヒーター2.0m 88.1 125.6 213.7 0.85 0.21
 表4 放射率εの計算結果
被加熱物 Q伝達 [W] Q放射 [W] Q′ [W] α ε空焼き
空焼きヒーター0.5m 404.5 528.7 933.2 1 0.6
空焼きヒーター1.0m 218.3 290.6 508.9 0.56 0.58
空焼きヒーター2.0m 74.5 111.5 186 0.21 0.58
 以上の計算結果から、NCF800で1000℃酸化表面の空焼きヒーターの放射率は、およそ0.6であると予想できた。