LABORATORY熱の実験室


 ● 海と山編の結果について

 第6回の「温泉編」と違い、今回の実験では、純水より海水の方が沸点が高い。標高が高い山では気圧が低いので沸点が下がる、という真っ当な結果が出ました。地中深くから地上に出て間がない温泉と、元々地上にある海水の違いかもしれません。

■ モル沸点上昇

 海水は、塩化ナトリウムなどの成分が溶け込んだ溶液ですが、沸点が上昇するのは、「モル沸点上昇」というもので、モル濃度(1kgの水に何モル溶けているか)に比例します。水の場合には、次のようになります。
モル沸点上昇[℃]=0.52×モル濃度[mol/kg]
 1ページ目に示した海水の成分をモル濃度に換算して、モル沸点上昇を計算してみます。
成分 成分割合 成分量 分子量 成分モル濃度 電離度
塩化ナトリウム(NaCl) 77.90% 26.5g/kg 58.44 0.453mol/kg 1
塩化マグネシウム(MgCl2 9.60% 3.26g/kg 95.22 0.034mol/kg 0
硫酸マグネシウム(MgSO4 6.10% 2.07g/kg 120.4 0.017mol/kg 0
硫酸カルシウム(CaSO4 4.00% 1.36g/kg 136.1 0.010mol/kg 0
塩化カリウム(KCl) 2.10% 0.71g/kg 74.56 0.010mol/kg 0
その他 0.30% 0.1g/kg
合計(その他を除く) 0.524mol/kg
 その他を除く合計では、0.524mol/kgになります。ところが、塩化ナトリウムはほぼ完全に電離している(電離度:1)ことが知られています。水中では、Na+とCl-に完全に解離していると、成分モル数が2倍ということになりますので、0.524+0.453=0.977[mol/kg] が合計のモル濃度になります。塩化ナトリウム以外は、0から1の間の電離度なのは確かですが、良くわからないし、成分量も少ないので、電離度を0として計算しました。上の式に代入すると
モル沸点上昇[℃]=0.52×0.977 = 0.51[℃]
 となり、実験No.1の、海辺での測定結果の、純水と海水の差と同じです。実験No.2の、山での測定でも、差は0.4℃でしたので、ほぼ合っています。

■ 気圧低下による沸点低下

 水の飽和水蒸気圧から換算すると、純水の沸点は、実験No.1:海辺での測定では、気圧が約1008hPaで99.8℃(測定結果は100.7℃)、実験No.2:山での測定では、気圧を785hPaと推定して93.0℃(測定結果は94.2℃)になります。気圧低下による温度低下の傾向としては大体合っていますが、1℃前後実測値の方が高くなっています。沸騰しているフラスコの中は、液体と気体が両方ある状態で、気体の蒸気はフラスコ底面からの加熱で多少過熱された状態になっていて、飽和水蒸気圧から換算した値より、多少高くなるのではないかと思います。例えば、ナベなどで何かを茹でたりするために湯を沸かす状態を考えると、同様にこのフラスコでの測定と同じようになっているはずです。